今から数年前に遡る。
息子は年長さんにあたる年齢だ。家族揃って、私の実家に帰省していたときの出来事。
息子はその滞在中、“きびだんボ”と表記されているきびだんごをはじめて口にした。昔ながらのお菓子だが、我が家では買ったことがない。(私の祖母)息子のひいおばあちゃんが自分用のおやつに買ってあったものだ。
昔ながらのお菓子は、懐かしくて美味しいが、我が家でよく買うポテチやチョコより大分立派なお値段だ。昔ながらのおやつは、我が家にとっては高級なおやつ、だ。
息子はきびだんごが美味しかったようで、自宅に帰る前に、ひいおばあちゃんにおねだりした。
「ひいばぁ、このきびだんボ少しもらって帰っても良いですか」
「いいよいいよ。持って帰りなさい。」
そう言って、息子の広げた両手の手のひらに、封が開いているきびだんボの袋を逆さまにしてワサワサと振った。
息子の手のひらには、5〜6個ほどのきびだんボがのった。
息子は目を見開いて大きめの声で
「え!!こんなにたくさん頂いていいんですか!?」
「いいよいいよ。持って帰りなさい。」
息子はにかっと笑って
「ありがとうございます!!」
と元気いっぱいにお礼を言った。
少し離れたところに居た私は、吹き出しそうになるのを我慢していた。
息子が敬語を使って話しているのを初めて聞いたし、何だか幼いのにその大人みたいな言葉遣いが滑稽だった。
「へぇーー。そういう言葉遣いできるんだぁー。へぇー。」
と、いやぁ~な感じで言った。その途端、
息子が“ギッッ”と私を睨んできた。
「ママだって、誰かに物をもらったらいつもそう言っているでしょ!だから、まねしてるの!!」
「え〜?真似しないほうがいいよー?ママなんて、いつもテキトーな感じで、テキトーな言葉遣いで、好き〜なこと言ってるんだからぁ。」
私が、だらっとしてそう答えると、息子が強い口調で叫ぶように私に向かって
「何言ってるんだよ!テキトーは困るからやめてよ!いつも、ママだったらどうするかなぁ?と想像して、ママと同じにしたら大丈夫と思っているのに!言葉遣いだって、きちんと話してくれよ!間違って使われたら困るよ!!」
「えっ……………」
…心臓が止まりそうだった。驚きすぎたし、ショックで声が出なかった。
続けて娘が言った。
「ママ。私も同じで、いつも大人の人に声をかけられた時は、ママだったらどんな風にお返事してお話するかなとイメージして、ママになったような気持ちで大人の人とお話してるよ。」
「…………そうなの?」無意識に小声になってしまった。
二人は口を揃えて
「うん。」と頷きながら言った。
もう、
ものすごぉいスピードで、私は猛烈に反省した。“あぁ………そうか。そうだよなぁ…。”
そういえば、少し前に近所の方が、
「外でたまたま(家の子どもたちに)会っときに声をかけたら、まるで“みゆきちゃん(私)”とお話しているみたいだったわ、そっくりね。大きくなったわね!」
と言っていたのを思い出して、子どもたちのこれまでの言葉とそのお話とが、私の頭の中で繋がった。
“そうだよなぁ……。何で気づかなかったんだろう。そりゃ、そうだよなぁ…。”
一番一緒にいて、
良いことも悪いことも教えくれて、
誰よりも身近にいる大人のお手本。
…うん、私だ。
動物も生まれたときから、少しでも早くひとり立ちができるように、一生懸命に親のお手本を見て成長していくもの。
人間も、子どもたちはいつか大人になるために、自分の力で生きていけるように、生まれたときから身近な大人をお手本に頑張っているんだね。
そうそう、私も子供の頃、母や祖母だったらどういう風にお返事するか、立ち振る舞うか、よく観察していたなぁと思い出した。そしてやはり、真似していた。それが正しいと信じていた。
今までえらく長い間ずっと寝ぼけていて、今やっとすっきり目が覚めた感じがした。
知らず知らずのうちに、私の背筋も伸びていた。
私…
生きてる“子供の教科書”だったんだ。
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